花ぎれのこと

花ぎれ。本の天地、本文と表紙の背の間にみえる、小さな部分(写真の濃いグリーンの部分)。
・・・なんで「花」ぎれっていうんやろ、と思ったことありませんか?
ハードカバー製本をしたときに、はなぎれについての記述をいろいろな本でみてました。そのなかのひとつ、『製本
・・・はなぎれはヘドバン(ヘツド・バンドの意味で、頂帯の字をあてる)ともいい、俗に花切とも書き・・・
とある。ふむ。英語では「headband」といって、その訳としては頂帯、という呼び方があったのだ。それならなぜに「花」切?
(以下ながいので、興味なければスルーしてください)
予測。
・まず、和本のそれに相当する部分は「かどぎれ」と呼ばれている。
・それに対応する呼び方として「○○きれ」という呼び方をされた。
・「端(はし)」のことは「はな」ともいうので「はなぎれ」。
・「端切」「端布」とかくと「はぎれ」とまぎらわしいので、同じ音でイメージもよい「花」におきかわった。
というところかな。
まず、日本語のことばの歴史を調べるときに、とりあえず見てみる『日本国語大辞典』をみてみると
はな-ぎれ【花布】[名]本製本の中身の背の上下両端にはりつけられた布。本来は色糸を交互に折り丁に縫いつけたものであるが、現在はしま布や色紙などの模造品を用いる。本を丈夫にするとともに装飾の役割を果たす。*最新百科社会語辞典(1932)「はなぎれ」[書・印]
「花」の字しか載っていない。用例として、辞典のみだし、書籍や印刷の用語としてひらがなで「はなぎれ」というのがあるだけ。
図書館にいって、他の本もみてみる。
とりあえず棚に並んでいるくらいの最近出版された本には記述なし。
検索して、書庫にある載ってそうな本をだしてもらう。
すると2つみつかった。
『誰れにも出来る製本の手引き』(鬼原俊一 昭和25年)の用語説明の項。
ハナギレ(花布、端布)Headband)中身の背の天地に付けるもの、一名ヘッドバンドと云う。
『実用製本技術読本』(高橋秀三 昭和11年)
第十節 ヘドバンに就て
ヘドバン(端布(はなきれ、とふりがな)、Headband(ヘッドバンドとふりがな)は本の天地の切小口に附けて装飾とするもので女の半襟といったものだが元来は装飾のためではない。一寸ヘドバンの歴史を説いてみやう・・・
ということで「はな」の元々の意味は「端」というのはあたっていそう。
もう少しさかのぼってみたい、と思って国立国会図書館の近代デジタルライブラリーをみてみる。ここは明治大正に出版された本で著作権がきれているものがデジタル化されていて、webで閲覧できる。「製本」で目次を検索してでてきた本をチェックしていくと・・・
ひとつだけ見つかった。
『図画応用紙細工』(明治43)の211ページの終わりに
・・・天地に耳切(鼻切又はヘト切ともいふ)をつけ・・・
耳切という言い方もあったのかあ。「はな」も「鼻」だし。
どちらにしろ、「はな」=「端」はまちがいなさそう。
ちょっと本で使われていた用語をまとめてみると
明治43年 耳切(鼻切 ヘト切)
昭和11年 ヘドバン(端切)
昭和16年 はなぎれ(花切)ヘドバン
昭和25年 ハナギレ(花布、端布) 別名 ヘッドバンド
という感じ。現在出版されている本では、「花」の漢字しか使われていないようだ。
装飾、という意味とイメージからこの漢字が定着したのかなあ。
もともと「はな(花)」となぜ呼ぶようになったのか、語のなりたちとして、「茎や枝の先端にあるもの」というのも理由のひとつといわれている(顔の鼻も同じ語源)ので、まあ、根っこのところでは同じ?
製本の用語がいつごろ固定されたのかはわからないけれど、西洋の本だからといって外国語を訳した、というのではなくて、それまでの製本用語に照らしてつくられたようだ。
でも、いったいどこで?
というのも、「端」を「はし」とよばずに「はな」と呼んでいるから。「はしきれ」ではなく「はなぎれ」。
私の育った福井の方言では「端」のことを「はな」とか「はなっこ」とか呼ぶので(そうだったと思う)、すんなりそういう発想がでてきたけれど、それをオットにいったところ「はな」って普通は使わない、といったからだ。
さきの『製本』によると洋装本がさかんになったのは明治6年頃から、横浜で、だそう。著者の上田徳三郎氏はドイツ人からならったそうなのだが。
「はな」という言い方は当時そのあたりで普通だったのだろうか?
こちらをみると、幕末にも長崎などですでに洋装本がつくられていたのは確認されている。すでにそのときに用語があったのかはわからないし、長崎で「端」のことを「はな」というのかも調べていないのでわからない。
英語ではなくて、オランダ語や、ドイツまたはフランス語の製本用語で、はなぎれをなんと呼ぶのかも調べられないので不明。なさそうな気がするけど、もしや「flower」にあたいする言葉がつかわれていたりして???
とりあえず調査はここまで。まあ、なにかのおりにまた。
・・・今回ブログに書くのに「はなぎれ」とネットでひいてみたら、あっさり「端切」という表記がみつかった・・・。あはは。たとえばこちら。
この時代になんでまずweb検索しなかったのか。。。は自分でもわかりません(汗)
ところで近代デジタルライブラリーはなかなかおもしろい。
製本で検索すると明治末の「小学校の手工科教授法」のいくつかの本のなかにその項目がでてくる。簡単な綴じ方のようだけれど、市販のノートなどなかった時代には書いたものを綴じてまとめる、というのは子供もやっていたのだなあと思った。いろんな作業がまだ手元にあったころの話。
そのほか、国会図書館の電子展示会、「インキュナブラ」のところもなかなか大きな迷宮。
本のページだけでなく、抜き出された活字、それに製本道具の写真まであってけっこう楽しめる。リンク先まで見出してさまよいだすと、戻ってこれなくなります...。
・まず、和本のそれに相当する部分は「かどぎれ」と呼ばれている。
・それに対応する呼び方として「○○きれ」という呼び方をされた。
・「端(はし)」のことは「はな」ともいうので「はなぎれ」。
・「端切」「端布」とかくと「はぎれ」とまぎらわしいので、同じ音でイメージもよい「花」におきかわった。
というところかな。
まず、日本語のことばの歴史を調べるときに、とりあえず見てみる『日本国語大辞典』をみてみると
はな-ぎれ【花布】[名]本製本の中身の背の上下両端にはりつけられた布。本来は色糸を交互に折り丁に縫いつけたものであるが、現在はしま布や色紙などの模造品を用いる。本を丈夫にするとともに装飾の役割を果たす。*最新百科社会語辞典(1932)「はなぎれ」[書・印]
「花」の字しか載っていない。用例として、辞典のみだし、書籍や印刷の用語としてひらがなで「はなぎれ」というのがあるだけ。
図書館にいって、他の本もみてみる。
とりあえず棚に並んでいるくらいの最近出版された本には記述なし。
検索して、書庫にある載ってそうな本をだしてもらう。
すると2つみつかった。
『誰れにも出来る製本の手引き』(鬼原俊一 昭和25年)の用語説明の項。
ハナギレ(花布、端布)Headband)中身の背の天地に付けるもの、一名ヘッドバンドと云う。
『実用製本技術読本』(高橋秀三 昭和11年)
第十節 ヘドバンに就て
ヘドバン(端布(はなきれ、とふりがな)、Headband(ヘッドバンドとふりがな)は本の天地の切小口に附けて装飾とするもので女の半襟といったものだが元来は装飾のためではない。一寸ヘドバンの歴史を説いてみやう・・・
ということで「はな」の元々の意味は「端」というのはあたっていそう。
もう少しさかのぼってみたい、と思って国立国会図書館の近代デジタルライブラリーをみてみる。ここは明治大正に出版された本で著作権がきれているものがデジタル化されていて、webで閲覧できる。「製本」で目次を検索してでてきた本をチェックしていくと・・・
ひとつだけ見つかった。
『図画応用紙細工』(明治43)の211ページの終わりに
・・・天地に耳切(鼻切又はヘト切ともいふ)をつけ・・・
耳切という言い方もあったのかあ。「はな」も「鼻」だし。
どちらにしろ、「はな」=「端」はまちがいなさそう。
ちょっと本で使われていた用語をまとめてみると
明治43年 耳切(鼻切 ヘト切)
昭和11年 ヘドバン(端切)
昭和16年 はなぎれ(花切)ヘドバン
昭和25年 ハナギレ(花布、端布) 別名 ヘッドバンド
という感じ。現在出版されている本では、「花」の漢字しか使われていないようだ。
装飾、という意味とイメージからこの漢字が定着したのかなあ。
もともと「はな(花)」となぜ呼ぶようになったのか、語のなりたちとして、「茎や枝の先端にあるもの」というのも理由のひとつといわれている(顔の鼻も同じ語源)ので、まあ、根っこのところでは同じ?
製本の用語がいつごろ固定されたのかはわからないけれど、西洋の本だからといって外国語を訳した、というのではなくて、それまでの製本用語に照らしてつくられたようだ。
でも、いったいどこで?
というのも、「端」を「はし」とよばずに「はな」と呼んでいるから。「はしきれ」ではなく「はなぎれ」。
私の育った福井の方言では「端」のことを「はな」とか「はなっこ」とか呼ぶので(そうだったと思う)、すんなりそういう発想がでてきたけれど、それをオットにいったところ「はな」って普通は使わない、といったからだ。
さきの『製本』によると洋装本がさかんになったのは明治6年頃から、横浜で、だそう。著者の上田徳三郎氏はドイツ人からならったそうなのだが。
「はな」という言い方は当時そのあたりで普通だったのだろうか?
こちらをみると、幕末にも長崎などですでに洋装本がつくられていたのは確認されている。すでにそのときに用語があったのかはわからないし、長崎で「端」のことを「はな」というのかも調べていないのでわからない。
英語ではなくて、オランダ語や、ドイツまたはフランス語の製本用語で、はなぎれをなんと呼ぶのかも調べられないので不明。なさそうな気がするけど、もしや「flower」にあたいする言葉がつかわれていたりして???
とりあえず調査はここまで。まあ、なにかのおりにまた。
・・・今回ブログに書くのに「はなぎれ」とネットでひいてみたら、あっさり「端切」という表記がみつかった・・・。あはは。たとえばこちら。
この時代になんでまずweb検索しなかったのか。。。は自分でもわかりません(汗)
ところで近代デジタルライブラリーはなかなかおもしろい。
製本で検索すると明治末の「小学校の手工科教授法」のいくつかの本のなかにその項目がでてくる。簡単な綴じ方のようだけれど、市販のノートなどなかった時代には書いたものを綴じてまとめる、というのは子供もやっていたのだなあと思った。いろんな作業がまだ手元にあったころの話。
そのほか、国会図書館の電子展示会、「インキュナブラ」のところもなかなか大きな迷宮。
本のページだけでなく、抜き出された活字、それに製本道具の写真まであってけっこう楽しめる。リンク先まで見出してさまよいだすと、戻ってこれなくなります...。
Comment
なるほど~。
しかしここまで調べるとは、言葉へのこだわりはさすがやね!
〉女の半襟といったものだが
そうそう!私もそう思います。
〉一寸ヘドバンの歴史を説いてみやう・・・
「一寸」「みやう」がたまらんね。
でも「ヘドバン」ってどうよ・・・?
しかしここまで調べるとは、言葉へのこだわりはさすがやね!
〉女の半襟といったものだが
そうそう!私もそう思います。
〉一寸ヘドバンの歴史を説いてみやう・・・
「一寸」「みやう」がたまらんね。
でも「ヘドバン」ってどうよ・・・?
- #GpEwlVdw
- 703
- URL
- Edit
703ちゃん
なんでも調べるの好きやねん。
よろず調べ会社とかあったら入社したいくらい。
(身辺調査などでなく、うーん、デイリーポータルみたいな会社??)
半襟、そうなのよ~。
すこーしだけみえるけど、大きいポイント。
「ヘドバン」。
職人のおじいさんがいってるのを想像してみたら、よい感じよー。
はなぎれより、音が男気あるんちゃう?
なんでも調べるの好きやねん。
よろず調べ会社とかあったら入社したいくらい。
(身辺調査などでなく、うーん、デイリーポータルみたいな会社??)
半襟、そうなのよ~。
すこーしだけみえるけど、大きいポイント。
「ヘドバン」。
職人のおじいさんがいってるのを想像してみたら、よい感じよー。
はなぎれより、音が男気あるんちゃう?
- #-
- sayaka
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2009.05.01 Fri 21:08 素晴らしい調査報告!!!
こんにちわ。お久しぶり!!!
すごーい,勉強になりました。この探究心,頭が下がります。
ナイスタイミングで五月は,ハナギレ編むに挑戦してきまーす。
ハナギレって,カタカナで書くと何か,おしゃれーじゃないね。
別なものみたい。
あははっ。
しかし,先生や先輩達のはなぎれは,とっても緻密で,色も素敵なデザインになってて,綺麗だったのよー。
さぁ,私もできるかなぁ~。
すごーい,勉強になりました。この探究心,頭が下がります。
ナイスタイミングで五月は,ハナギレ編むに挑戦してきまーす。
ハナギレって,カタカナで書くと何か,おしゃれーじゃないね。
別なものみたい。
あははっ。
しかし,先生や先輩達のはなぎれは,とっても緻密で,色も素敵なデザインになってて,綺麗だったのよー。
さぁ,私もできるかなぁ~。
- #Zk/lHUeI
- にこりん
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にこりんさん
ハナギレ。
「編む」とくっついてると「ハマナカ手芸糸」をなぜか思い浮かべます。
いいですね!
花ぎれ、私もただくっつけるんじゃなくて、「編み」たい!
やりかけのコプティック製本をやらねばーー。
また、いろいろ報告してくださいね。
ハナギレ。
「編む」とくっついてると「ハマナカ手芸糸」をなぜか思い浮かべます。
いいですね!
花ぎれ、私もただくっつけるんじゃなくて、「編み」たい!
やりかけのコプティック製本をやらねばーー。
また、いろいろ報告してくださいね。
- #AzGtBMyw
- sayaka
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