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コトバ綴ジ

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本棚の薬

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『星の王子さま』、うちには2冊あります。新訳がたくさん出たにもかかわらず、どちらも内藤濯さん訳のもの。
ひとつは岩波少年文庫のもの(初版は昭和28年、もっているのは44年)。

・・・もとの本には、作者自身の手になった水彩画が、ほとんどページごとにはいっています。この訳本でも、もとの色どりをそのまま複製したかったのですが、出版の方の事情が許さないので、しかたなくあきらめました。残念です。

と、内藤さんのあとがきにもあるように、見返しに続く1枚の王子さまの絵以外はモノクロです。
でも、赤い栞が映えてます。

「訳本を公にしてから、もう十三年あまり」あと。
ずいぶんとたくさんの人の手に渡り、たくさんの人に贈られた『星の王子さま』。
増刷のときに、あとがきにさらに加えられた文章があります。

・・・いつかの「図書」には、あまりしょっちゅう読むのは勿体ないような気がして、時々絵だけ眺めたり、パラパラとめくってみたり、それからまた本棚にしまって、それがあるだけで安心する、と岸田今日子さんが書いておられましたが、これこそは、ほんとうにこの本に親しんでいる人の気もちでしょう。信用してなん度かのんだ薬というものは、もうそれをのまなくても、手もとにあるということだけで、思いのほか効き目をもつものです。

ずいぶんひさしぶりでも、効き目のかわらない薬、あらたにちがう効き目もある薬。
一度しか読んでないけれど、実物も手元にないけれど、ずっと効いている薬、もありそうです。


内藤濯さんは、口述を書きとめてもらいながら翻訳しています。
口にだしてここちよい、ことを大事にされていたとのこと。たまには声にだしてよんでみます。


ところで、岩波少年文庫は、石井桃子さんが企画編集に携わっていらっしゃいます。
この本のあとがきにも

・・・訳者としてはできるだけ良心をもって事にあたったつもりですが、訳筆を進めてゆくうちに、もとの文体の単純さが日本語に移しきれなくて、気おくれしたことも一度や二度ではありませんでした。でもそこを、さほど不体裁でなく切りぬけることができたのは、お忙しいところを何かと面倒を見てくださった石井桃子さんのおかげです。

とありました。

『くまのプーさん』はじめ、たくさん児童文学を訳されている石井さんですが、犬養道子さんの『花々と星々と』を読んでいた時。
彼女の祖父(犬養毅)の蔵書、それも漢書を整理するひとを探していた時に菊池寛の紹介でやってきたのが

・・・「石井桃子です」
と、その人は、それこそお祖父ちゃまの丹精の、バラのように薄ら紅い頬に笑みを湛えて自己紹介をした。若々しいが地味であった。地味だが明るかった。清潔で温かかった。
「これはいい人にちがいない」少女の直感で私はそう思った。

「漢文は出来ぬでもエエ。図書の好きな人ならエエわ」
ということでやってきているので、漢文ができたかどうかはわからないけれど、現在よりも漢文に親しんでいた時代でしょうから、きっと読めたのではないでしょうか。
創作もし、編集もし、英訳もし、漢書も。ことばの才能にあふれた人だったのだなあ。

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表紙も素敵なこの本。
道子さんの幼少のころからのことが綴られていますが、彼女のエピソードはもちろん、祖父の犬養毅、白樺派の作家の父をとりまく人々や情勢、当時の描写がとってもおもしろい本です。



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『・・・・・そしてまた文字を記していると



・・・しんと静かな夜に文字を書いていると、インクの色に夜の時間がまじってくる。インクの夜、夜のインク。

・・・修道院では火事になるのを防ぐためもあって、写字は日のさしこむ明るい回廊で朝から行う、と読む。
 同じように朝から文字を書き始めて、白い紙が埋まっていくにつれて、日も暮れていく。文字やことばや思いがたまって夜をつくる。

・・・考えの鎖を解き放たれたら、からだのくびきからも解放されるんだよ、と読む。目の前の文字も意味やかたちから解放して、ページから空にはなちたくなる。


書きながらあれこれと思い浮かんで、作品のもとになる。
自分の手で書く、という行為は、からだをつかっているので自然とまわりと関連するのだと思う。



『・・・・・・そしてまた文字を記していると』。
すばるの4月号に掲載されている谷崎由依さんの短編です。

静けさにみちた石壁の写本室で、夜、ささやかな灯火のもとで文字を書く、
そんな場面から始まります。
(もしまっさらで読みたい方は、この先読まないでください。)
文字や言葉でいろいろ妄想するのが好きな人には、たまらない描写がたっぷりですのでぜひどうぞ。


文字を書くと同時に、あかりを反射しているペン先のひかりの点が描く宙の文字を好む主人公の彼。
自分の手で書く、身体をとおす、という、その行為で、表にあらわれていない文字を見る。

夜、小さなあかりを手に、回廊を手でそっとなぞり感触をたしかめながら歩く。「よそよそしい」言葉も、自分の身体をとおすことで自分の一部になる。「問い」をつうじて、奥へ奥へとはいっていこうとする。そんな世界のたしかめ方が、とても好き。
自分とまわりのもの、ものともの、みなの境があいまいな、ひとつという感触も。

回廊をぐるっとまわると元の場所だが、けしてそこは同じ場所ではない。
こんな描写がありますが、物語は、そんなふうにすすんでいきます。

人里離れた高い山の上の僧院という限られた場所。
書物、経典のなかからすべてのものが生まれる。

ほんとうに小さな小さな手元の世界からはじまった妄想幻想的な世界がうわっと外につながる最後にははっとします。
いつの時代の、どこなのか、はっきりと書かれてはいませんが、単語やルビや旗の色でわかります。
彼が闇に、空に、書かれてはいない文字を見るのはそういうことだったのか。
幻想的な小さな世界から、あの国で起きている現実に。
彼は読むべき文字を見つけたのかもしれない。


旗に経文を書いて風になびかせるのは、祈りを風にのせて世界に広げるため、ということらしい。
つまり、はためいたそのときから、祈りはそこから吹かれてはなたれていき、旗の文字はその祈りの「残像」ともいえるのだと思う。物語の冒頭の、彼が好む「書いている文字の双子のような残像である文字」も、いったいどちらが残像なのか。

読まれるべきことばは浮かんでいるのに、それを読み取れない、読み取ろうとしていないのかもしれない。でも誰かが受け止めて、また、はなたなければ世界は壊れていくのかもしれない。

空中にただよう祈りをつかんでいるのは、詩や物語や、芸能や、芸術なのかもしれない、とも思います。


読んでいると、ひとつぶの砂に世界を見る、というブレイクの詩も思い浮かんできたりするのですが、これはググってみると、華厳経の教えと同じ考え方なのだそうですね。物語の舞台の宗教(もう隠さなくてもバレバレな感じですが)でも、重要なものとのこと。今回初めて知りました。ウィリアム・ブレイクは影響を受けていたのでしょうか。




「第一に、図書館は永遠を超えて存在する。」




記事のタイトルはボルヘスの「バベルの図書館」(『伝奇集』鼓直 訳)から。

本棚のある場所は好物です。書店、図書館、よその家、小さいところでも大きいところでも。
今日は「世界でいちばん美しい書店」という番組があることを新聞で知って録画しています。

ちょっとさかのぼって昨年末、たまたま「America's most beautiful libraries」という記事に出会って、写真を見ながらうっとり。以前Candida Hofer の図書館ばかりをうつした写真作品も見たことがありますが、図書館、というのは存在が日本とはちがうのだなあと。「(他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙」。時間空間次元ありとあらゆるものである空間。美しく妄想広がる場所。
でも、フツーの建物でも図書館は好きな場所です。コンクリートのお役所的な建物でも、ひっそりと、古い、大学の図書館の書庫なんか楽しかった。



さて、ずいぶん前に書こうかなと思い、途中になっていた記事を発掘。
9月だったと思いますが、メールマガジンンのなかにアルゼンチンでのボルタンスキーの展示のお知らせを発見。しかもひとつはボルヘスがつとめていた元国立図書館で。好物どうし・・・。
タイトルは「FLYING BOOKS A Tribute to Borges」


空飛ぶ本たち。本棚をあとにして。

記事冒頭にもリンクしたビデオと、サイトの「PASEO VIRTUAL」(VIRUAL TOUR)の両方で展示の様子がよくわかります。

展示するためのテグスも画像では見えたりするのですが、それがまたよくて。

ひゅるひゅると本からのびた糸がくもの糸のようにうかんでいることばをつかまえて本になったのか。
六角形のバベルの図書館の真ん中にあいている穴に落とされた本たちが、そこのない穴の途中に張られたくもの巣にふんわりつかまえられたのか。


ボルヘスが「バベルの図書館」のモデルにしたのは、この図書館ではなく、もっと小さい市立図書館のほうですが、すでに建て替えられたのか、見つけた画像はどれも現代的なシンプルな建物でした。バベルの図書館をヒントに、というと映画「薔薇の名前」の図書館ですが、あれは見てふと興奮してくらくら・・・。


それにしても本が飛ぶとき、ってやっぱり背を下にしてとぶんでしょうね・・・。
画像をみながら、ふとすべて背をうえに、ページを下に本が浮かんでいる様子を思い浮かべたのですが、いっきに自分のうえにことばや文字が降ってくる図が見えて、これもくらくら・・・。


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さて、先日「世界の終り」の図書館のページが広がっている展示を見ました。

私の大好きなお店の、いつも相手をしてくれるかわいい女子。
彼女の言葉と、作家さんのつくるアクセサリー。
綴られていたのは、本のない図書館にある、自分の、誰かの記憶でしょうか。

ことば、イメージ、もの、音楽、余白。すべてがひとつの空間で響きあってました。
熊本での展示の様子はお店PEOPLEのページでのぞけます。
(上の画像は展示会場のものでなく、ちょっとお手伝いした時に残っていた痕跡です。)

熊本での展示は残念ながら終わってしまいましたが、来週からアクセサリーの作家Lumpさん(こちらでも熊本の様子が見られます)の地元・京都でも展示があります。お近くのかたはぜひぜひお出かけください。


そういえば、「バベルの図書館」の図書館を照らす「光は、ランプという名前を持っている球形の果実からくる」んですよね。

ことばを照らすランプ。

ランプはLampかもしれないけど、Lumpもいいかも・・・。小さな甘いかたまりが照らす・・・。




もの、との展示はいつかやってみたいことのひとつです。
お互いそっぽむいてるようで、並ぶとちがうものがみえる、ようなのもよいかも。

追伸



先の記事にあげた、青い表紙のフィンレイの本、中はまず英語で、次にスペイン語でかかれてます。フォントはエリック・ギルのJoanna。普通のとイタリック。

同じ本に、アルファベットを使う言語をふたつ同じ大きさで組み入れるとき、ひとつのページに黒と赤のブロックだったり、一行ごといれこに赤と緑だったり、こんなふうに、ひとつの書体のヴァリエーションだったり。そういえばカリグラフィーで二か国語併記したことって私はあんまりないです。そのときはウエイトや大きさを変えてしまったのでちょっとちがうな・・・。日本語と同じ表記の言語ってないから、日本語と英語、漢字を使う中国語でも、アルファベットどうしとはちがう。こういうページを見るとおもしろいなと思います。

ペンギンブックス Grear Ideas Series


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以前触れた『ペンギンブックスのデザイン』で知った、Great Ideas シリーズ。
「世の中をかえた」、クラシカルな内容にぴったりの、文字だけでデザインされた表紙にこころうばわれ・・・。
内容も興味ある方々に、うちにきていただきました。
(クリックすると少し大きい画像になります。)

このシリーズについては、こちらのペンギンブックスのサイトを。

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シリーズ1~5まででテーマカラーがちがいます。
表紙は、黒とそのカラーの2色。
うちにきたのは、シリーズ1と2から。

背はそのシリーズの色になってます。

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なかでも私をメロメロにしたのは、これ。著者もキェルケゴールです。
これ以外にもありますが、タイトル、内容、出版社が対等にデザインされてるのがおもしろい。

7冊中、6冊がDavid Pearsonという方のデザイン。
マルクス・アウレリアスだけが、『ペンギンブックスのデザイン』の著者でもある、Phil Bainesさんのもの。

David Pearsonさんの学生時代のtutorがPhil Bainesさんなんだそうです。

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すべて、型押しされていて、価格のわりにとってもきれいなのですが・・・。あとから押してるせいか、小さい文字になるとずれまくってるのが・・・(泣)。
デザインがきれいだから、型押してなくても十分いいのになあと思います。

ふー、それにしても開いて型をつけるのももったいなく。
という都合のいい理由をつけて、表紙をみせるようにして、本棚にしばらく(ずっと?)飾っておくことになりそうです。


そういえば、私がカリグラフィーでブックカバーをつくろう、と思った理由のひとつが、手持ちの本をカバーして、こんなふうに面出しして本棚でもどこでも置いてもらったら、手軽に、ことば&カリグラフィーに親しんでもらえるかなあと思ったことです。額にいれる必要もないし、ちがう本にかけかえてもよいなあ、と。


プロフィール

sayaka

Author:sayaka
星の
かわりに
夜ごと、ことばに灯がともる
(ウンベルト・サバ 須賀敦子訳)

ことば+アルファベット+妄想。

カリグラフィーをしています。

町の写字室管理人

@scriptorium303

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